公務員として働き始めて数年も経つと、職場の同期や同世代が次々と結婚していきます。
そして結婚してまた2〜3年経つと、今度は職場の休憩室で「どこに土地を買うか」「どのハウスメーカーが良いか」というマイホームの話題で持ちきりになる。それが、公務員の世界ではごく当たり前の「お決まりのコース」のようになっていました。
多分に漏れず、20代半ばを過ぎた当時の私も、その波に自然と乗るように家を建てることになりました。
周囲と同じように就職し、同じように結婚し、同じように一戸建てを建てる。それが一人前の社会人としての責任であり、公務員として真っ当で幸せな生き方だと思っていたんです。
しかし、公務員として20年勤め、職場の板挟みで動悸が止まらなくなった末の休職の経験を持つ今、振り返ってみて思うことがあります。
それは、この「周りと同じように家を建てる当たり前の流れ」と「安易なボーナス払い」こそが、組織にしがみつくしかなくなる足枷(あしかせ)なんじゃないかということです。
住宅ローンが引き起こす我慢のループ
- 「住宅ローンの返済があるから、どんなに理不尽な状況でも耐えるしかない」
- 「ボーナス払いを組んでいるから、給料が減るのが怖くて休職なんてできない」
- 「定年まであと20年、どれだけ仕事が嫌でも勤め上げるしかない」
今回は、真面目でルートに乗りがちな公務員ほどハマってしまいがちな住宅ローンの落とし穴と、私が10年以上前に先輩から教わって救われた「身動きを取れる家計の防衛ライン」について書いてみます。
銀行の「7,000万でも8,000万でも貸せます」を断った理由
私が住宅ローンを組んだのは、今から10年以上前のことでした。
周りの同僚と同じように家を建てようと銀行の窓口へ相談に行き、公務員という身分を伝えると、担当者の方は満面の笑みを浮かべてこう言いました。
「公務員の方なら信用力は申し分ありません。7,000万円でも、なんなら8,000万円まででも満額で融資枠を出せますよ」
提示された金額を聞いた瞬間、私は正直言ってその金額にピンと来ませんでした。「公務員なら定年まで安定して昇給するから大丈夫」と太鼓判を押されても、自分一人の給料で7,000万も8,000万もの借金をあと35年間も背負い続けるなんて、返済できるかどうかのイメージができなかったんです。
金融機関にとっての「貸せる金額(安全に回収できる上限)」と、自分たち家族にとっての「無理なく返せる金額」はまったくの別物です。銀行は家族の平穏な生活や心の健康までは保証してくれません。
職場の先輩の「一馬力なら3,500万まで」という助言に救われた
そんなとき、迷っていた私を救ってくれたのは、職場で席が近かった先輩の一言でした。
家を建てる相談をした際、その先輩はこうアドバイスしてくれたのです。
「公務員で一馬力(夫の給料のみ)で家を建てるなら、どんなに銀行が貸すと言っても借入は3,500万円くらいまでにしとけ」
「それ以上の金額を借りると、毎月の支払いに追われて身動きが取れなくなる。家族との暮らしや自分の心にゆとりを残しておきたいなら、借入額を絶対に背伸びさせるな」という教えでした。
| 比較項目 | 銀行の提示額 | 先輩の助言(採用した額) |
|---|---|---|
| 借入額の目安 | 7,000万〜8,000万円 (上限いっぱいの危険水準) | 上限3,500万円まで (一馬力で無理のない安全水準) |
| 毎月の返済感 | 給料の大半が消え、手元がカツカツになる | 手取りの20〜25%前後に収まり余白が残る |
| 万が一の休職時 | 返済が滞り、即座に家計が破綻する | 手元の生活防衛資金で十分に耐えられる |
私はその助言を守り、借入額を上限よりも大幅に抑えて計画を立てました。当時は金利1%以下の超低金利時代でしたが、それでも借入額を無理のない範囲に抑えたからこそ、後に係長になって朝の動悸で立ち止まった際も、家計が破綻せずに済んだのです。
金利が上昇傾向にある今の時代に家を買う人は、当時の私たち以上に慎重な借入設計が求められます。金利がわずか0.5%上がるだけでも、35年間の総返済額は何百万円単位で跳ね上がってしまうからです。
落とし穴になる「ボーナス払い併用」の危険性
住宅ローンを組む際、避けたほうがいいのが「ボーナス払いの併用」です。
毎月の返済額を少しでも安くするために「ボーナス月に20万円加算」といったプランを組んでしまうと、万が一の休職時に家計は危機に陥ります。
| 勤務状況 | 期末・勤勉手当(ボーナス)の支給 | 住宅ローン返済への影響 |
|---|---|---|
| 通常勤務 | 満額支給(年2回・計4〜4.5ヶ月分) | 問題なく返済可能 |
| 病気休暇(30日超) | 休んだ日数に応じて「減額(除算)」 | 支給額が減り、手元資金からの補填が必要 |
| 休職(6ヶ月以上) | 勤務実績ゼロのため「完全不支給(0円)」 | 数十万円の返済原資が突然消滅する |
公務員のボーナスは、直前半年間の勤務実績に応じて計算されます。病気休暇でも一定日数を超えれば減額され、休職が半年続けば容赦なく「ゼロ」になります。
休職中でも給料の一定割合は手当として出ますが、年に2回、何十万円もの住宅ローンが口座から容赦なく引き落とされる恐怖は計り知れません。ボーナス払いを組んでいる限り、公務員は「病気になる自由」すら奪われてしまうのです。
👇公務員が病気休暇や休職制度を利用した際、期末・勤勉手当が具体的にどのように計算され、どのくらい削られるのかについては、こちらの記事で制度の計算根拠を詳しく解説しています。

身動きを取れなくしないための3つの家計ルール
住宅ローンに縛られず、組織の外に逃げ道を作っておくために、私が実践してきた家計のルールは以下の3点です。
住宅ローンに縛られないための3原則
- ボーナス払いは組まない:毎月均等払いのみにし、ボーナスは全額を生活防衛資金や投資へ回す
- 住居費は手取りの20〜25%以内:見栄や過度な設備ではなく、毎月の返済に追われない心のゆとりを最優先にする
- 住宅ローン残高を超える「資産の盾」を作る:固定費を削り、新NISAなどを活用して運用資産を積み立てておく
手元にまとまった運用資産があれば、「最悪、明日仕事を辞めても家を売るか資産を取り崩せばいつでも完済できる」という絶対的な安心感が生まれます。
住宅ローンの重圧から解放され、公務員が組織にしがみつく恐怖を手放すための具体的な家計管理と新NISAの活用手順は、こちらの記事にまとめています。

まとめ:家は生活の道具であり、人生を縛る鎖にしてはいけない
家は、家族と穏やかに笑い合い、日々の活力を養うための「生活の道具」に過ぎません。
周囲と同じように結婚し、同じように家を建てること自体が悪いわけではないのです。しかし、その家を守るために毎朝動悸に耐えながら出勤し、上司の機嫌をうかがい、自分の心を壊してしまっては完全に本末転倒です。
銀行の「いくらでも貸せます」という甘い言葉に乗せられず、自分たちの身の丈に合った暮らしを守ること。そして、万が一のときにいつでも立ち止まれる家計を作っておくこと。
住宅ローンという見えない鎖を緩めておくことこそが、組織の「定年まで我慢ゲーム」から安全に降りるための、最も確実な防衛策になります。

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